近くで見ても遠くでも見ても花火はきれい
ドン、ドンと音がして、「花火じゃない?」とくろさん。
先程買い物に行った時、街中で浴衣の人たちを見かけて「今日花火なんじゃない?」と言っていたのを思い出した。
市内だけど、家からは離れた場所で開催されている花火大会。
「見えるかな?」と言ったら「いやー見えないでしょ」と笑われた。それでも一応、とベランダに出てみる諦めの悪い私である。
ドン、ドン、の音は続いている。音のする方に目を凝らす。
建物と建物の間で小さいながらしっかりとした光が見えた!
「花火見えるよ!おいでおいで!」急いでくろさんを呼ぶ。「うそお!?」と言って一先キッチンの換気扇の下でタバコを吸い始めるのを、「ベランダで見ながら吸えばいいじゃん!」と急かす。
二人でベランダの隅に立つ。
花火が上がっていくのまで見える!遠いけどわりとはっきり見える!
暫く上がっては弾ける花火を二人でビール片手に眺めた。
そして、くろさんが話し始めたのだった。
くろ「音の伝わる速さはどのくらいでしょう?」
めろ「え、分かんない」
くろ「正解は秒速300mくらいでした」
めろ「えー結構遅いんだね」
くろ「じゃあ光の伝わる早さはどれくらいしょう?」
めろ「何億光年くらい?」
くろ「んーと、0が8コくらい」
めろ「へー!」
くろ「だから音の方が遅れて聞こえるんだよ」
めろ「そうなんだー、全然違うね!」
くろ「ここから花火まで1.2Kmくらいかなあ」
めろ「えーもっとあるんじゃない?」
くろ「そうかな?直線距離だよ」
めろ「もっとあるよー多分。何で?」
くろ「花火が見えてから音が聞こえるまで4秒くらいだから」
めろ「え、数えてたの!?」
くろ「うん、大体ね」
めろ「へー!すごい!」
こうして私の学のなさが露呈していく夏の夜。
一緒にいても、同じところで同じ花火を見ていても、考えることは全く違うのだなあと思うと、やっぱり二人でいられてよかったと思うのです。二人でいることで意味があるのだなあと思うのです。
私がくろさんに教えてあげられることはきっと多くないのだろうけど、私がベランダに出なければ今日くろさんは花火を見なかったかもしれないし、私はくろさんに教えてもらわなければ音と光の速さについて考えなかった。
こうやっていつまでも二人で無いものを補っていきたいと思うのだ。
「花火って夏って感じでいいよね。あと浴衣」
じゃあ今年はどっちも見れてよかったね、と言ってあげたくなっためろなのであった。